大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和46年(行ツ)61号 判決

上告人 医療法人積愛会

被上告人 保土ケ谷税務署長

訴訟代理人 二木良夫

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人大類武雄、同小笹勝弘、同村瀬統一の上告理由について。

原審が確定した事実関係のもとにおいては、本件各第二次更正処分は、各第一次更正処分を取り消した行政処分であり、各第三次更正処分は、各第一次更正処分とは別個にされた新たな行政処分と解するのが相当であつて、この点に関する原審の判断は、所論引用の判例に違反するものといわなければならない。

しかしながら、各第二次更正処分は、各第一次更正処分を処分庁みずから取り消した行政処分にすぎないのであるから、これに不可変更力を認めることはできず、したがつて、各第三次更正処分が各第二次更正処分の不可変更力に違反するとの主張は、失当である。また、各第三次更正処分は、各第一次更正処分が各第二次更正処分により取り消されたのち新たにされた更正処分であるから、第一次更正処分と重複するものではなく、また、国税通則法二六条の要件を具備するかどうかを問題にする余地はない。また、更正処分自体には所論のような取消権の制限の適用はないから、新たにされた各第三次更正処分について所論のような更正権の制限違反を生ずる余地はない。さらに、各第三次更正処分は更正権の濫用であるとの主張に対する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし正当として是認することができ、その過程に所論の違法は認められない。

そうすると、各第三次更正処分は違法なものとはいえないから、原審の判断は、結局、その結論において正当である。論旨は、右と異なる見解に立つて原判決を非難するものであつて、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判官 岸盛一 藤林益三 下田武三 岸上康夫 団藤重光)

上告理由

第一原判決には、民事訴訟法第三九五条一項六号に該当する違背がある。

一 以下において、 「第一次更正処分」とは、被上告人(但し名称変更前の戸塚税務署長)が上告人に対して昭和四三年一二月二七日付でなした、上告人の昭和四一年四月一日から同四二年三月三一日までの事業年度(以下「昭和四一事業年度」という)の法人税確定申告に対する更正処分(戸法法特更第四二六号)並びに上告人の同四二年四月一日から同四三年三月三一日までの事業年度(以下「昭和四二事業年度」という)法人税確定申告に対する更正及び加算税賦課決定処分(戸法法特更第四六〇号)をいい、 「第二次更正処分」とは被上告人が上告人に対して昭和四四年五月三一日付でなした右二事業年度の法人税等に関する第一次更正処分を取消す旨の取消処分(保法法特更第六七号、六八号)をいい、「第三次更正処分」とは同じく同日付でなした昭和四一事業年度の法人税に関する再更正処分(保法法特更第六九号)並びに昭和四二事業年度の法人税に関する再更正処分及び加算税賦課決定処分(保法法特更第七〇号)をいうものとする。

二 原審は「第一次更正処分が第二次更正処分をもつて取消され、その取消の同一日付で第三次更正処分として昭和四一事業年度のそれは理由を補充訂正し〃中略〃た経緯はこれを卒直かつ実質的に観察すれば、昭和四一事業年度の第三次更正処分は第一次更正処分の理由を直接補充訂正したものであ」る旨判示している。

三 然しながら第二次更正処分は実質的にも形式的にもそれ自体一個独立の取消処分であると解するのが相当である。それは、第二次更正処分は文書を以つて上告人に通知されその理由記載欄には「当初の更正所得金額を取消します」(傍点当代理人)と明確に記載されてをり、また本件訴に先立つて上告人が被上告人に対して第一次更正処分の取消を求めた訴訟(横浜地方裁判所昭和) 四四年(行ウ)第八号)において処分庁である被上告人自身が「第一(次更正処分は第二次更正処分によつて取消された、従つて第一次更正処分の取消を求める法律上の利益はない」旨主張し横浜地方裁判所はこれを容れて訴を却下する判決(甲第七号証参照)をなしこれが確定しており更には本件第一審判決も第二次更正処分を取消処分と解しているところからして争う余地のないところである。

四 そうであるにも拘らず原審は単に前記のとおり、「卒直かつ実質的に観案」した結果として第二次更正処分による取消の効果をまつたく無視してその論を押し進めているのである。

一体行政処分が所定の要件を備えた文書により相手方に通知された以上何らの合理的説明もなく単に「卒直かつ実質的に観察した」という理由だけでその処分の効果を無視することは、法治行政の建前、行政の法的安定性、行政手続の保障の見地から許されないことである。しかもその「卒直かつ実質的観察」は、「同日付で……理由を補充訂正した経緯」について行なわれたものと解されるが、一方原審は第二次更正処分につき、「この通知書の記載内容だけからすれば〃中略〃確定申告額どおりの所得金額または欠損金額に再更正したものであるとみることもできるであろうが、同日付で第三次更正処分として昭和四一事業年度の更正としては理由の補充訂正がたされ〃中略〃控訴人に通知されていることを考えると右第二次更正処分は第三次更正処分をする前提の手続として形式的に第一次更正処分を取消すためになされたにすぎず、本来取消処分である。……」旨判示(傍点当代理人)しているのであるから、まつたく同一の理由により一方では第二次更正処分を取消処分と解し、他方ではその処分効果をまつたく無視していることになりその論旨は矛盾している。

五 ところで少なくとも納税者としては実質的法治主義一適正手続保障の見地から適正合理的な方法により所得の認定を受くべき「法的利益」を有するものというべきであるから、本件の場合第二次更正処分と第三次更正処分の二つの矛盾する処分が同日付で為されたこと自体それだけで上告人の右「法的利益」を侵害するものといえるが、さらにそのうえ第二次更正処分自体の法的性質、効果についての見解が裁判所においてさえ区々とたるに至つては、かかる方法、手続で為された第三次更正処分は明らかに上告人の右「法的利益」を奪うものといわなければならない。

六 以上のとおり第二次更正処分につき何らの合理的説明のないまま、むしろ矛盾する理由によつてその処分の効果を無視した原審判示には、理由不備若しくは理由齟齬があること明らかである。

第二原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかな法令違背がある。

一 (判例違背)

1 原判決が前記のとおり第二次更正処分効果をまつたく無視したことは、昭和三九年(行ツ)第五二号更正処分等取消請求事件についての昭和四三年九月一九日第三小法廷判決に違背し延いては行政法の解釈原理に違背するものである。

2 すなわち右判例によればその理由中「第二次更正処分は、第三次更正処分を行なうための前提手続たる意味を有するにすぎず、また、第三次更正処分も、実質的には第一次更正処分の附記理由を追完したにとどまることは否定し得ず、また、かかる行為の効力には疑問がないではない。しかしながら、これらの行為も、各々独立の行政処分であることはいうまでもなく、その取消の求められていない本件においては、第一次更正処分は第二次更正処分によつて取り消され、第三次更正処分は、第一次更正処分とは別個になされた新たた行政処分であると解さざるを得ない。」旨判示しているのである。

即ち、右判例に従えば本件の場合も(第二次更正処分は独立の行政処分として第一次更正処分を取消す効力を有するものであることは明らかである。それにもかかわらず原審が第二次更正処分の効果を無視したことは右判例に違背し延いては行政法の解釈原理に違背するものである。

3 ところで一般に更正処分を取消した処分は納税者を一つたん課した過大な納税義務から解放したという意味で納税者に利益た処分であるから不可変更性を認めるべきであり、また何らの事情の変更もないのに毅疵ある処分として取消処分によつて取消された処分とまつたく同一の処分を、しかも同日付でしなければならない公益の要求もあるとは考えられず、しかも仮に更正処分の取消後それと同一の処分を再び為すことができるものとすれば、結果的には取消処分を介在しさえすれば国税通則法第二六条の要件が欠缺しているにもかかわらず同一の更正処分の繰り返しを認めることとなり、このことは右法条を潜脱するばかりでなく、行政行為の不可変更性、信義則に違背し、税務行政における適正手続の保障、その適正運営と法的安定性(国税通則法第一条)を侵害するものとなり許されない。

4 そして本件昭和四一事業年度についての第三次更正処分は後述するとおり同年度の第一次更正処分と何ら異なる点はないものであるから、前項で述べたとおりの理由で違法として取消されるべきものであり、また昭和四一事業年度の第三次更正処分が取消されれば、これを前提とする昭和四二事業年度の第三次更正処分も取消されるべきことになるから、原審の前記法令違背は判決に影響を及ぼすこと明らかそある。

二 (挙証責任の法則、経験則違背)

1 原審は、第三次行政処分は第一次行政処分の「単なる訂正処分であるから、それが更正権の濫用に渉るような事実がない限りこれを違法とすべき何らの理由もない。」(傍点当代理人)として第一審判示を引用して「被控訴人が敗訴を免れるため意識的に本件各第三次更正処分をたしたと認めるに足りる証拠はない」旨判示している。

2 しかしながら、第三次更正処分は以下の理由により、被上告人が訴(前記横浜地方裁判所昭和四四年(行ウ)第八号)の敗訴を免れるため、あるいはいたずらに実体関係訴訟関係を複雑ならしめて上告人の争訟の道を塞ぐため恋意的に為されたものである。

すなわち、

(一) 被上告人は第一次更正処分において税率の適用の誤りという明らかな、ミスを犯しながら、しかも上告人の度々の指摘にもかかわらず何らこれを訂正しようとせず、止むを得ず上告人が所定の不服申立の手続を経て第一次更正処分の取消の訴を提起するや(昭和四四年五月一〇日)被上告人はそれまでの態度を一変し直ちにこれを取消し(昭和四四年五月三一日)、それを理由として右訴の却下を求めたこと。

(二) 仮に被上告人が主張するとおり第一次更正処分の附記理由に最疵がありそれを補充訂正する必要があつたとしても直接第三次更正処分を為せば足り敢えて第二次更正処分を介在させる必要はなかつたこと、

(三) 原審判示のとおり第三次更正処分が第一次更正処分の「単なる訂正処分」であるとしても、第一次更正処分の附記理由自体については上告人被上告人間に何ら争いはなかつたのであるから、「単なる訂正処分」を行わなければならない事情は何らなかつたこと、

(四) 昭和四一事業年度の第三次更正処分の附記理由は、第一次更正処分の附記理由につき若干その表現を詳細にしたにすぎず内容的にはまつたく同一であること、等だからである。

3 また一般に更正処分の取消訴訟においては処分庁側に実体的並びに手続的適法性の立証責任があると解するのが相当である。

とこらで本件の場合、被上告人から前記のとおりの内容、手続、方法で第三次更正処分が為された理由につき何らの合理的説明もないのだから、少なくとも第三次更正処分が適正に行なわれた証明はされてないことになる。

4 それにもかかわらず漫然濫用に渉る事実がないからこれを違法とすべき何らの理由もないとした原審には、判決に影響を及ぼすこと明らかな法令(挙証責任の法則、経験則)違背がある。

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